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牛のげっぷのメタンを減らして環境・経済両面でいいとこどりする地球温暖化防止戦略とは?

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ウシはメタンガスを排出するので地球温暖化対策のために何とかしなければ!という主張をよく聞くようになりました。メタンの温室効果は二酸化炭素の25倍ということで、えらいこっちゃ!という気はするのですが、そもそもなぜ牛からメタン?一体どういう仕組みなんでしょう?

「ウシのげっぷを退治しろ: 地球温暖化ストップ大作戦」(大谷智通・著, 小林泰男・監修)はそんな疑問に答えてくれる本です。牛はなぜメタンのげっぷをするのか、牛からのメタンは温室効果ガス排出量の何割を占めるのか、ゲップに含まれるメタンを削減する方法にはどんなものがあるのかを、丁寧に教えてくれます。

とてもわかりやすいのですが、専門的な用語もしっかり盛り込まれているところがポイント高いですへ。例えばこんな感じ。

ウシはなぜメタンのげっぷをするのでしょうか。

繊維質などが発酵分解されるとき、副産物として水素や二酸化炭素が発生します。
ウシのルーメンには、この水素と二酸化炭素などから特殊な代謝でエネルギーを獲得して結果としてメタンを生成する「メタン生成古細菌」という古細菌(アーキアと呼ばれます)が何種類も住んでいます。

出典:「ウシのげっぷを退治しろ: 地球温暖化ストップ大作戦」P.87

この部分だけだと「どこがわかりやすいの?」という感じかもしれません。しかし、心配は無用です。「?」と思う用語については、必ず前後に解説があります。

例えば、耳慣れない「ルーメン」は、牛の四つの胃のうち一番目の胃のことだと、図解つきで説明されているページがありますし、「発酵」などの比較的なじみ深い言葉まで説明されていますので、安心して読み進めることができます。おかげで生物や化学が苦手な私でも、牛がメタンを含むゲップをする理由をつかむことができました。

また本書では、牛のゲップのメタンを減らすために、どのような研究が進んでいるかを知ることもできます。

詳しくは本書をお読みいただきたいのですが、今のところの私の理解は、

  • 牛が食べたものを消化する際にメタンが発生することは避けられない
  • しかし与えるえさを変えることによって、牛の体内で発生するメタンを減らすことができる
  • ゲップの形で吐き出されるメタンはエネルギーの無駄。メタンの生成を抑制すれば少ないえさで牛を大きくできる
  • 「カシューナッツ殻液」や、海藻のカギケノリをえさに混ぜて与えると、メタンの量が減る
  • 本書監修の小林泰男博士らによる「牛のげっぷメタン80%削減」を目的としたプロジェクトが進行中

というものです。牛のげっぷのメタンを抑制することは、牛の体からエネルギーが奪われるの防ぐことでもあり、経済的にもメリットがあることなんですね。

ところで、牛の飼育についてはメタンの放出以外にも問題視されていることがあります。それは、牛を飼うには広い土地が必要であることと、穀物を大量に消費すること。土地を必要とすることは、森林伐採につながりますし、穀物をえさとすることは人間の食料と競合します。

さて、では今後の酪農や牛の畜産はどうするべきでしょうか。個人的には、牛肉は食べず牛乳も飲みませんので、飼育頭数は大幅に減らすべきなのでは?と思わないでもありません。

しかし、気になるのは成長期の人々の栄養です。

子どもの頃に牛乳や牛肉の恩恵を受けていなければ、今の自分の体格や健康はなかったのではないか?と考えると、単純に「環境に悪いので牛の利用じたいを削減すべし!」とも言えないような気がします。酪農家や畜産農家の人の生活もあることですし。

本書は、この点についての落としどころを私に示してくれるものでもありました。

第4章の「草100%のえさに戻そう」には、牛のげっぷのメタンを抑制する技術は開発しつつ、牛との付き合いを続ける。ただし穀物を与えるのはやめて、牛の本来の食べ物である草を与えよう、という考え方が書かれています。

今のようにトウモロコシや麦、大豆などを飼料にするようになったのは、ウシを贅沢に太らせるためです。

本来の牛の食べ物である草だけを与えた場合、牛の成長は遅くなり、また肉は赤身のかたいものになるそうですが、そこは人間の嗜好を変えてみてはどうか?というのが著者の提案。

本書によると、霜降り肉で有名な黒毛和牛の肉1キロを得るために20キロの穀物がいるそうで。個々の農家の事情はわかりませんが、人間の食べるものを奪ってまでの営みであるならば、とても支持できるものではないなあいうのが実感です。

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