ほぼ日書評チャレンジ中

このページにはプロモーションが含まれています。

環境問題にも熱心なビル・ゲイツ氏が提唱する、気候変動を論じる際に考えるべき「5つの問い」とは?

この記事は約6分で読めます。

「地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる」(著:ビル・ゲイツ, 翻訳:山田 文, 出版:早川書房)を読みました。2021年出版。ゲイツさんの20年ぶりの著作だそうです。

ビル・ゲイツさんについては、世界の公衆衛生の向上に熱心だというイメージは持っていました。例えば、感染症のワクチン開発や途上国における「トイレ革命」など。

あのビル・ゲイツが「トイレ革命」に挑戦する訳
開発途上国では、トイレの不衛生、あるいはトイレがないことによって感染症にかかり、多くの人が命を失っている。そんな開発途上国の状況と本気で向き合っているアメリカの経営者がいる。ソフトウェアの世界的企業…

しかし、気候変動対策に取り組んでいるというイメージはなかったんですよね。さて、ゲイツさんは何を決断したのでしょうか。

スポンサードリンク

2年前の気候変動本は古くなっていないか

じつは、当初読み始めたときは、途中で本を置こうかと思いました。というのは、本書では温室効果ガスの排出量や費用などのデータや、最新の技術動向がふんだんに盛り込まれているので。

いや、数字やテクノロジーに基づいているというのは、長所ではあると思います。しかし、問題は、気候変動や脱炭素についてのデータ、議論、ルールが刻々と変化していること。そんな今、2年前の本を読むことに意味があるのだろうか、と虚しさをおぼえたのです。

■「地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる」の目次
はじめに 510億からゼロへ
第1章 なぜゼロなのか
第2章 道は険しい
第3章 気候について論じるときの5つの問い
第4章 電気を使う――年間510億トンのうち27%
第5章 ものをつくる――年間510億トンのうち31%
第6章 ものを育てる――年間510億トンのうち19%
第7章 移動する――年間510億トンのうち16%
第8章 冷やしたり暖めたりする――年間510億トンのうち7%
第9章 暖かくなった世界に適応する
第10章 なぜ政府の政策が重要なのか
第11章 ゼロ達成に向けた計画
第12章 一人ひとりにできること
おわりに 気候変動とCOVID-19

しかし、第3章「気候について論じるときの5つの問い」にざっと目を通したときに考えが変わりました。「5つの問い」とはこちら。

  • 510億トンのうちのどれだけなのか
  • セメントはどうするつもりか
  • どれだけの電力なのか
  • どれだけの空間が必要か
  • 費用はいくらかかるのか

「地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる」3章(P.75-)より引用

この五つの問いに、気候変動対策を考えるときに有用なエッセンスが詰まっていると感じました。具体的な数字は、ざっくりとした傾向を示すものなので、ひんぱんに最新情報に読み替える必要もなさそう。

「〇〇は脱炭素に効果的だから投資しろ」「××はコストがかかるからやめるべきだ」などの言説に左右されない基準を持ちたい人には、ぜひ一読をおすすめしたいところです。以下、私なりにまとめてみた「5つの問い」の要点です。

「気候について論じるときの5つの問い」の要約

510億トンのうちのどれだけなのか

たとえば、「この取り組みで温室効果ガスの排出量が何万トン削減できます!」などのうたい文句に接したとき。それは年間総排出量の何パーセントにあたるのか?を計算しようという提案です。

「510億トン」というのは、ゲイツさんが本書執筆にあたって世界の温室効果ガスの排出量として採用した数字。

例えば、「ある調査における航空セクターの排出量削減が1700万トン」という報道があったら、
1700万トン÷510億トン×100≒0.03%
という計算をします。

計算したあとは、「それが多くの排出削減につながる見込みはあるか?」を検証します。

セメントはどうするつもりか

鉄鋼とセメントの製造は温室効果ガスの全排出量の約10%を占めています。脱炭素と聞いて多くの人がまず思い浮かべるのは電気と自動車ですが、「他にも考えることがあるというリマインダー」としての問いです。

下記は、本書に示された「人間の活動によって排出される温室効果ガス」の割合です。

  • ものをつくる(セメント、鋼鉄、プラスチック) 31%
  • 電気を使う(電気) 27%
  • ものを育てる(植物、動物) 19%
  • 移動する(飛行機、トラック、貨物船) 16%
  • 冷やしたり暖めたりする(暖房、冷房、冷蔵) 7%

出典:同P.80

どれだけの電力なのか

「500メガワットの発電容量」などの規模感を把握するために、あるエリアにおいて必要とされる電力の何パーセントぐらいなのか?を計算してみようという提案。本書には、「世界」「アメリカ」「中規模都市」「小さな町」「平均的なアメリカの家庭」に必要な電力が目安として示されています。

どれだけの電力が必要か

  • 世界 5,000ギガワット
  • アメリカ 1,000ギガワット
  • 中規模都市 1ギガワット
  • 小さな町 1メガワット
  • 平均的なアメリカの家庭 1キロワット
  • 出典:同P.81

    なお、単位については、メガワット=百万ワット、ワットは1秒あたり1ジュールですが、「1秒当たりのエネルギー量とだけ憶えておいてもらいたい」とのこと。

    ワット、キロワット、メガワット、ギガワットの換算を補足しておきますと、次のようになります(kWはキロワット、MWはメガワット、GWはギガワット)。

    1000W=1kW
    1000kW=1MW
    1000MW=1GW

    どれだけの空間が必要か

    発電設備を設置するには場所が必要です。ある発電方法は1平方メートルあたり何ワット生み出せるか?「電力密度」という考え方で問いを立てようという提案。

  • 化石燃料 500-1000ワット
  • 原子力 500-1000
  • 太陽光 5-20
  • 水力(ダム) 5-50
  • 風力 1-2
  • 木質などのバイオマス 1未満
  • 出典:同P.83

    費用はいくらかかるのか

    どの炭素ゼロの選択肢をいま展開すべきかを、「グリーン・プレミアム」で判断しようという提案。

    本書における「グリーン・プレミアム」とは、ある製品やサービスのつくり方(炭素を排出する)を、クリーンな代替案に置き換えたとき、コストが何パーセント割高かを示したもの。ざっくりとした計算式はこうなるかと思います。

    グリーン・プレミアム=(クリーンな代替品の費用÷炭素を排出する技術の費用-1)×100

    例)既存のジェット燃料が2.22ドル/1ガロンで次世代バイオ燃料は5.35ドル/1ガロンだとすると、グリーンプレミアムは140%

    グリーン・プレミアムがあまりにも大きい場合は、その代替案は実現するのが難しいということになり、今は研究開発資金や優秀な発明家を集中させるべきではないという判断になります。

    また、グリーン・プレミアムがマイナスになる場合は、すでにクリーンな代替案の方が安いということ。その場合は、政策や体制などコスト以外の要因が脱炭素化をじゃましているのではないか?という検討に移ることができます。

    電卓をたたいて数字で考えよう

    というところで、以上、ビル・ゲイツ著「地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる」の第3章「気候について論じるときの5つの問い」をご紹介しました。

    世界を脱炭素化するためには、技術、お金、政治など複雑に絡み合った問題を解決する必要があります。そして、2050年カーボンニュートラル実現に賛同するならば、急ぐ必要もあります。

    そのためには、電力量や温室効果ガスの排出量などの数字を前に固まってしまったり、自分に都合のいいところだけを切り取って主張する人たちに流されたりしている余裕はありません。

    気候変動や脱炭素に関するニュースを読んだとき、グリーンを掲げる企業のプレスリリースを見たときは、ゲイツさんの「5つの問い」を思い出して電卓をたたいてみようと思った次第です。

    タイトルとURLをコピーしました