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えっ?まだ埋まってるの?水俣条約発効で知った日本のお粗末な水銀対策

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2017年8月16日に、「水俣条約」が発効しました。正式名称は「水銀に関する水俣条約」。私は、eco検定の勉強を通じて、名前と概要しか知らなかったのですが、発効に関するニュースを読んだところ、世界の水銀の排出状況とか、水俣の水銀汚染の現状とか、何かと衝撃を受けることがありました。この記事では、そのあたりを分かりやすくまとめてみます。

なお個人的には、水銀といえば水銀体温計って最近見ないよな、ぐらいの認識でした。

水俣条約とは?

水俣条約は、水銀が人の健康及び環境に及ぼすリスクを低減するための規制を定めたもので、2013年10月、熊本県の熊本市や水俣市で開催された外交会議で採択されました。

環境省のページ「水銀に関する水俣条約の発効の決定について(環境大臣談話)」によると、この条約は、締結をした国(締約国)が50か国を超えた日から90日後に発効することになっていました。その90日後が2017年8月16日だったというわけです。

日本も、締約国の一つです。条約の発効により、ざっくり言うと、今後は水銀の輸出入が規制されたり、水銀を使った製品の使用が制限されたりします。

参考:
水銀に関する水俣条約の発効の決定について(環境大臣談話)

2017年1月発行のeco検定公式テキスト(第6版)では、こう解説されています。

水銀に関する水俣条約
「水銀に関する水俣条約」は、水銀が人の健康及び環境に及ぼすリスクを低減するため、産出、使用、環境への排出、廃棄、貿易など、そのライフサイクル全体にわたる包括的な規制を定めた条約です。2013年10月に熊本県において採択され、日本は水銀汚染防止法制定や大気汚染防止法の改正などで国内での取り組みを整備し、2016年に条約を締結しています。

改訂6版 環境社会検定試験eco検定公式テキスト 161ページより

この条約の存在を知って、まず思ったことは「なぜ今さら水銀についての条約?」でした。

私にとって、水銀の恐怖といえば、高度成長時代に、工業排水に含まれる有機水銀により引き起こされた深刻な健康被害「水俣病」ですが、被害が確認されたのは1956年。約60年前です。

おそらく世界にも同じような例があり、すでに水銀の危険性は知れ渡っているのでは?2010年代の今、誰も垂れ流したりしていないのでは?と疑問に思ったのでした。

しかし、水俣条約発効のニュースをいくつか読んだところ、水銀による環境汚染は、過去のものではないことが分かりました。現在進行形で、汚染が進行している地域があり、かつ日本も爆弾を抱えているというのです。

フィリピンでは、大量の水銀が大気中に放出されている

例えば、フィリピンの金採掘の現場では、大量の水銀が大気中に放出されています。

フィリピンには、家族経営レベルの小規模な金の採掘(「小規模金採掘」、あるいは「ASGM」と言われます)に従事している人が約35万人いると言われており、その現場では、水銀が使用されているのです。

水銀を金鉱石と混ぜて合金を作る→合金を熱する→純粋な金が得られる、というプロセスなのですが、この過程で、水銀は蒸気になって、空気中に飛散します。そして……。

気化した水銀は上空で雲になり、やがて雨となって地面や海に降り注ぎ、細菌などによって、より毒性の強いメチル水銀に変化する恐れがある。メチル水銀は、日本で起きた水俣病の原因物質だ。

水俣条約発効 水銀汚染、根絶へ課題は(毎日新聞2017年8月16日)

上記記事によると、ASGMに従事する労働者の多くは、水銀が危険であることを知らないか、危険が指摘されていることは知っていても、「長年やってるけど問題ない」という認識だったり、生計を立てるためにやめることができないという事情があったり。

これを読んで、日本は、知識の普及や水銀を使わないASGMのための技術開発という形などで、支援をしていかないとダメだろうと思いました。また、水俣病という水銀の深刻な健康被害を経験した国として、それができるとも。

水俣には水銀値の高い汚泥が今も眠っている

しかし、日本は日本で、今後対処しなければならない水銀の大問題を抱えていたことを知り、かなり衝撃を受けています。

チッソ水俣工場が水銀を含む排水を垂れ流していた水俣湾の一部は、埋め立てられ、芝生の広場やバラ園などで知られる「エコパーク水俣」となっていますが、その地下にはまだ汚染された泥が眠っていると。

水銀値の高い汚泥がたまったエリアを鋼板で囲って海と仕切り、そこに水銀値が比較的低い沖合の汚泥を浚渫(しゅんせつ)して埋め立て、さらに、汚染されていない山の土で覆った。全体で約58ヘクタール。1982~85年に鋼板を設け、90年に埋め立てが完成した。

 鋼板の耐用年数は約50年とされていた。熊本県は、腐食の進行が想定より遅いとして少なくとも2050年ごろまで性能を維持できるとしているが、その後の方針は決まっていない。
水銀規制、条約名になったけれど… 水俣に残る負の遺産

いや、無知ゆえに水銀はすっかり無害化されたと思い込んでいたのですが……水銀が含まれた汚泥はそのまま留まっており、しかも、2050年以降の方針は決まっていないだなんてどうすんのこれ、と愕然としております。

上の記事によると、ある専門家は、地震で埋め立て地が液状化し、水銀を含む水が地上に噴きだす危険性を指摘しています。

また、別の専門家は、

ずっと未来まで鋼板や護岸をつくり続けるのか。後世に大きな負の遺産を残したままでは、水俣病の教訓を生かすことにならない(上記より引用)

と。いやまさに。

幸いなのは、汚泥の浄化は可能だと言う話。750億円という巨額の費用がかかるそうですが、豊島や青森・岩手県境の大規模不法投棄事案で、それぞれ約500億、700億の事業費が計上されてることを考えると、水俣もそのぐらい何とかならないものですかね。

条約の名に恥じないように、ここはバシッと無害化して、世界に範を垂れるべきではないのでしょうか。残された水銀入りの汚泥をエクセレントに処理できたら、その技術を海外に売ることもできそうです。

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