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脱炭素を語るなら知らないわけにいかないカーボンニュートラルの意味と盛り上がりの裏事情

超入門カーボンニュートラル ESG
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「超入門カーボンニュートラル」(夫馬 賢治・著、講談社+α新書)の感想です。2021年5月発行の新書。先日、環境省の脱炭素アドバイザー認定資格になった「GX検定ベーシック」という資格試験があります。その参考図書として名前があがっていたうちの一冊が本書です。

当初、ざっと全体を見渡したときの印象は、えっ?これが「超入門」?というもの。同じようなタイトルの本は、たいてい図解が豊富で、1見開き1トピックで収まっていたりするのですが、これは気軽にパラパラ眺めるというわけにはいかなさそうです。

しかも、出版社による内容説明からはあおり気味の印象を受けました。例えば「武器になる」「第一人者による決定版」「破壊力」「理解しなければ、まともな事業計画を立てることも、(中略)これからはできなくなる」というくだりには、少し反感を抱きました。

内容説明
脱炭素社会の基礎知識。次のビジネスはこの知識が武器になる。カーボンニュートラルに世界の投資マネーが殺到!第一人者による決定版。

いまや環境問題は大きな経済問題として認識されるようになった。金融界も「カーボンニュートラル」を意識するようになり、株価や金融政策にまで影響を及ぼすようになった。この言葉が持つ「破壊力」を理解しなければ、まともな事業計画を立てることも、経済政策を議論することも、さらには良い就職先を選ぶことも、良い投資することも、これからはできなくなる。

それでも読んでみることにしたのは、第一章「「カーボンニュートラル」って、つまり何?」の出だしがものすごく分かりやすかったから。

そもそも「カーボンニュートラル」とは何なのだろうか。これは地球の気温上昇を抑えるために、温室効果ガスの排出量をプラス・マイナス・ゼロにするということを指す。
出典:「超入門カーボンニュートラル」(夫馬 賢治・著、講談社+α新書)※以下引用も同書から

通常、ここで「温室効果とは」みたいな科学の話になるのですが、そこはいったん置いて、「ニュートラル」「実質ゼロ」の説明に入っているあたりが一味違うなあと。一文が短く、端的なところにも好感が持てました。

二酸化炭素の大気中への排出分を「プラス」、大気からの「吸収分を「マイナス」と定義すると、プラス分をマイナス分で相殺できれば、プラス・マイナスはゼロになる。この状態がまさに「ニュートラル(中立)」という状態になる。
英語では、プラス分とマイナス分の両方を合算したあとの変化量のことを指して「ネット」という。そのため、カーボンニュートラルは「ネットゼロ」とも表現される。日本語では「ネット」のことを「実質」「正味」「純」とも訳すので、カーボンニュートラルのことを日本語では「実質ゼロ」「正味ゼロ」と言ったりもする。

ここで、「地球の気温は上昇しているのか、上昇しているとしてそれは人間のせいなのか」という気候変動懐疑論を持ち出したくなる人もいると思います。

この点についての本書のスタンスは、(武田邦彦先生をはじめ)懐疑論者がいるのは承知だが、少なくとも多くの科学者はそれを支持しておらず、政治も経済も気候変動は脅威だという方向で回っている、というものです。

主に第2章で、「そもそも温暖化とは」が気になる人の疑問にも答えてはいますが、そこが本書の中心ではありません。

目次
第1章 「カーボンニュートラル」って、つまり何?
第2章 温室効果ガスをどう減らす?
第3章 資本主義は環境にとって悪なのか?
第4章 投資家と銀行が迫るカーボンニュートラル
第5章 カーボンニュートラル政策による各産業への影響
第6章 カーボンニュートラルと地政学

いや、温暖化の原因や、資本主義が環境にいいか悪いかはいいんだよ。なんで突然日本は「2050年カーボンニュートラル」だの「GXリーグ」だの「ESG投資」だの言い出したのよ?

というところが気になる人は、2章・3章はざっと眺めるだけにとどめ、第4章「投資家と銀行が迫るカーボンニュートラル」にジャンプしてもいいかもしれません。第4章の冒頭を引用させていただきます。

気候変動が金融危機リスクを生み出している。そのリスクは今後ますます高まっていく。それを食い止めるためには、人間社会の温室効果ガスを削減すればいいという解決策もわかっている。そして削減するには、デカップリングのためのイノベーションが有効だ。

ここで言う「金融危機リスク」とは、ざっくり言うと、気候変動により損失を被る企業の株価の下落や、損害保険の額の増大による世界経済へのもろもろの悪影響のこと。「デカップリング」とは、温室効果ガスを削減しながら、経済成長を実現していこうという考え方です。続きです。

ここまでわかっていれば、経済成長と国際的な金融システムから利益を得る事業を展開している投資家や銀行にとって、今実施すべきは何かということは明白だ。温室効果ガスを排出し続けている投融資先の企業や政府に対し、温室効果ガスを削減しつつ、また自分たちの投融資を、デカップリングのためのイノベーションを起こせる企業に振りわけていけばいい。

ここから始まり、第4章は「ESG投資」や「投資家」の実像、「クライメート・アクション100+」「国連責任銀行原則(PRB)」など投資家や銀行たちによる取り組みについて書かれています。

要はお金を持っている人たちが、「温室効果ガスの排出を食い止めるためにちゃんとカーボンニュートラルをやっている企業にお金を回しますよ」と言い始め、行動に出たということです。

また、第6章「カーボンニュートラルと地政学」は、EUが世界経済における覇権を取り戻すために着々とルールを整備してきたことや、中国や米国の取り組みについて割かれています。

いつの間にか世界では、気候変動をお金のリスク、あるいはチャンスととらえた人たちのルールができており、国境を越えて商売をしようとするなら、そのルールに乗っかるか、新しいルールを作るかしかなくなっていたようですね。

日本はそんな中、投資家や他の経済圏が作ったルールに乗ることを余儀なくされ、「2050年カーボンニュートラル」やむなしとなった感があります。何も「SDGs大事だよね!」などと目をキラキラさせているわけではない。そういった脱炭素にまつわる事情が簡潔に、身もフタもなく書かれているのが本書です。

「超入門」というには難度が高い気もしますが、お勤め先でカーボンニュートラルが規定路線となっている人におすすめ。

「なんでカーボンニュートラルしなきゃいけないんだろう?」と思いながら、温室効果ガスの排出量を計算したり、排出量を減らすためのビジネスアイデア出しに悩んだりしている人はぜひ一読を。迷いが吹っ切れます。

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