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戦時の流行語「翼賛型」が再び脚光を浴びる時代にならないよう今できること

小さいおうち 時事
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中島京子さんの小説「小さいおうち」を読んだので、その感想です。

この本を手に取ったきっかけは、同じく中島さんの小説「やさしい猫」を原作とするドラマが炎上していたこと。

「やさしい猫」では、外国人の在留資格とか技能実習生の問題が取り上げられているそうです。自称愛国保守の皆さんが気分を害しているようなので、きっとすぐれた作品にちがいないと思いました。

そこでまずは原作を読んでみようとAmazonをチェックしていたところ、目にとまったのが「小さいおうち」の表紙でした。

あらかわいい、と思い内容紹介を読んでみると、戦前戦中の日本の話だといいます。

世間に目を向けると、自民党の副総裁は台湾に行って中国を煽るし、その自民党には第二第三を自称する勢力が加わりそうだしで、誰かが言った「新しい戦前」という言葉が頭にちらつくご時世です。

ちょうど今の気分だなあと思い、「小さいおうち」を先に読むことにしました。

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あらすじ

「小さいおうち」の主な舞台は、戦前戦中の東京の裕福な家庭・平井家です。平井家で女中をつとめていたタキさんが、年月を経て当時を振り返るという形で、物語が進行します。

タイトルの「小さいおうち」とは、平井家の建物のこと。赤い屋根が特徴の、モダンでコンパクトなかわいらしい家として描かれています。

タキさんが仕える平井家の人々は、玩具会社の常務であるご主人と、美しい時子奥様、奥様の連れ子である恭一ぼっちゃん。時子奥様は、再婚で平井家に来ました。前のご主人とは死別です。

タキさんは、一家を取り巻くあらゆる状況に対応するスーパー家政婦。タキさんが慕う奥様は、女優とみまごう美貌と、どこか危なっかしい人柄で周囲の人々を魅了します。

生意気だけど憎めない恭一ぼっちゃんは、タキさんと仲良し。ご主人は、奥様よりずいぶん年上で、「理想的な旦那様」ではありますが、面白みのない人物として描かれています。

その他の主な登場人物は、ご主人の上司である玩具会社の社長、部下の板倉さん、奥様のお友達で雑誌編集者の睦子さん、タキさんの最初の奉公先の小説家の先生など。

彼らの暮らしや考え方、そしてそれぞれの関係性が日中・太平洋戦争突入を経て変わっていくようすを、晩年のタキさんは慈しむように、また時に痛みをもって回想します。

印象的だったところ

この本で印象的だったところは、特に政治や国の行方に興味がなかった人たちの考え方や行動が、世の中の変化につれてどんどん変わっていくところです。

わかりやすいのが、奥様のお友達の睦子さんです。進歩的なキャリアウーマンだった睦子さんは、「銃後髷」なる質素なヘアスタイルを考案し、国防婦人としての心構えを説くようになります。

「翼賛型」という言葉も印象残りました。戦時中、日本が躍進していた(と信じられていた)頃、「真面目で正しくいいもの」には「翼賛型」という言葉を付けるのが流行ったのだそうです。

この場合の「真面目で正しくいいもの」とは、お国にとって、という意味だったようですね。

例えば「翼賛型美人」です。ご主人の上司である社長さんは、タキさんを「翼賛型美人」と呼びますが、これは腰回りがしっかりしていて子供をたくさん産めそうだ、ということでした。

他には、南京陥落を記念した百貨店の売り出しや、タキさんと恭一ぼっちゃんの山下中将ごっこなど。

山下中将ごっこは、マレー戦勝のお祝いムードから生まれた遊びです。山下中将役の人が「無条件降伏、イエスかノーか」というと、敵将のパーシヴァル役の人は「イエス、無条件降伏であります」と言わなければいけません。

なんというか、こういった戦時中ならではのエピソードが、銀座でライスカレーを食べた思い出と同じトーンで語られるあたり、薄ら寒いものがありますが、渦中にあった人というのはそういうものかもしれません。

タキさんの回想にもっとも苦悩がにじむのは、時子奥様の恋について語るときだというのが、何とも言えない感じです。

読み終わっての感想

「小さいおうち」を読み終えてつくづく感じているのは、戦争というのは普通の人をじわじわと巻き込んでいくものなのだなあということです。

そして巻き込まれる人々は、嫌々そうしているとは限らないということ。タキさんなんかは、隣組の活動や、一家のための食料確保を自分のステージだととらえていたふしがあります。

その点私なんぞは、体力もなく機転もきかず、また奥様のように周りの誰かが何とかしてくれるという立場でもありませんので、戦時下を生き延びられる気がしません。

よって、「翼賛型」の流れが加速しないよう、選挙に行ったり、こうして書けるうちにものを書いたりしていきたいものだと思った次第です。

ところで、読み終わってからこの作品が映画化されていることを知りました。山田洋二監督の作品はけっこう見ているのに、これはうっかりしていました。

時子奥様は松たかこさんで、タキさんは黒木華さん、板倉さんは吉岡秀隆さんだそうで、うーん、ちょーっとイメージ違うかな。予告編を見る限り、設定も少し変わっているようです。

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