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読売新聞『編集手帳』ライターが教える文章書きが肝に銘ずべき十の戒めとは?

「編集手帳」の文章術 コミュニケーション
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『「編集手帳」の文章術』(竹内政明・著 文春新書 2013年1月)を読んだので、その感想です。

「編集手帳」は、読売新聞朝刊一面のコラムです。読売新聞の案内ページによると、「内外のニュースから肩の凝らない暮らしの話題まで多彩なテーマを自在に料理し、世相を約460文字で活写しているコラム」とのこと。

読売新聞のコラム:会社案内サイト「読売新聞へようこそ」
読売新聞には、筆力の優れたベテラン記者が様々なコラムを書いています。編集手帳、よみうり寸評など、読売新聞の代表的なコラムを、筆者の思いを交えてご紹介します。

朝日の「天声人語」と並んで、書き写し用の学習ノートも販売されているような人気コラムなのですね。

  • 知っている言葉を増やす
  • リズムのある文章の書き方を身につける
  • ニュースへの理解が深まる

という効果が得られるようです。

さて、竹内政明さんは、その「編集手帳」の6代目の執筆者です。2001年から2017年まで担当しました。

本書『「編集手帳」の文章術』は、出版界にもファンが多いという竹内さんが、文章を書く際の心得を惜しみなく明かした本として評価されています。

私が本書を知ったきっかけも、朝日新聞のコラム「素粒子」の執筆者による本『朝日新聞記者の200字文章術 ―極小コラム「素粒子」の技法』でした。

元朝日新聞『素粒子』ライターが教える表現力豊かな言葉選びのポイント3点
「朝日新聞記者の200字文章術―極小コラム「素粒子」の技法」を読んでいます。元朝日新聞記者のコラムニスト真田正明さんの本です。いや最近、あらためてブログを継続して書いていくことに決めたのですが、これが難しくてですね。何も人をうならせるような

いやしかし、名のある物書きの人々の文章術、文章読本の類に触れるたびに思うのですが、自身の書きうる「文章」の奥行のなさときたら。

例えば本書第6章「引用の魔術師と呼ばれて」(著者によると「呼ばれてえ」というべらんめえ調の願望だそうですが)には、古典や格言の引用についてのアドバイスが書かれていますが、そも自分は、古典や格言を引用しようと思ったことすらないことに気づいて愕然としたのでした。

ただ、第1章の「私の「文章十戒」」は、そんな教養のない私にも効きそうな助言が多く含まれているという印象です。今回の読書からは、そのあたりをきっちり持って帰りたいと思います。

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「編集手帳」執筆者の「文章十戒」とは?

竹内政明さんの「文章十戒」です。

【第一戒】「ダ」文を用いるなかれ
【第二戒】接続詞に頼るなかれ
【第三戒】大声で語るなかれ
【第四戒】第一感に従うなかれ
【第五戒】敬称を侮るなかれ
【第六戒】刑事コジャックになるなかれ
【第七戒】感情を全開するなかれ
【第八戒】変換を怠るなかれ
【第九戒】遊びどころを間違うなかれ
【第十戒】罪ある身を忘れるなかれ

『「編集手帳」の文章術』 第1章 私の「文章十戒」

特に即効性があるなあと思ったのは、第五・六・七戒です。順番に内容を紹介します。

【第五戒】敬称を侮るなかれ

敬称というのは、プロの書き手にとっても難しいものだ、ということを知ることができたのが大きな収穫でした。

特にマニュアルのようなものはないそうで、「さん」「先生」をつけるのが必ずしも礼儀にかなっているかというとそうでもないのが悩みどころ。

例えば、「司馬遼太郎」を呼び捨てにするのを尊大だと思う人はあまりいないだろうという一方で、「さん」をつけるのは、まるで生前に交流があったようで反感を買うおそれがあることなどが書かれています。

これを書くにあたって、「竹内政明」という著者の敬称をどうするか迷いましたが、著者が日々実践しているという「声に出して繰り返し読み、いちばん自然に聞こえる敬称を選んでいます」にならった結果、「さん」にしました。

呼び捨てでは歴史上の人物のようだし、「氏」ではあえて距離を置いているようだということで消去法で「さん」なのですが、なれなれしいと思われないことを祈ります。

【第六戒】刑事コジャックになるなかれ

この場合の「コジャック」はふてぶてしいコワモテの人。対比されるのは、同じく刑事ドラマの主人公でも温和で庶民派のコロンボ刑事です。

二つのドラマの日本版が作られたとき、担当の翻訳者の方は、元の英語のセリフが同じでも、コジャックとコロンボでは違う訳をあてました。例えば「Come on!」は、コジャックの場合は「早く来い」ですが、コロンボの場合は「こっちこっち」など。

これを新聞コラムに引き直すと、社説はコジャックでいいが、コラムはコロンボが望ましいというのが竹内さんの考えです。例えば社説が「大衆迎合的だ」「国益を損なう」「説明責任を果たしていない」というところ、コラムニストはどう書くか?

やわらかめの文章を書くことを目指す人は、意識しておいた方がよさそうです。

【第七戒】感情を全開するなかれ

誰かを非難したいときの言葉の選び方について。自分が正しいと信じるほど舌鋒は鋭くなりがちですが、

新聞の読者には「判官びいき」の心情があります。感情の激した調子の文章に出合うと、書き手に共感を寄せるのではなく、その文章で非難されている人物に肩入れしたくなる。そういう心理が働くようです。逆効果ですね。
P.35

とのこと。

この心理、私も読者・視聴者として理解できるところがあります。糾弾されている人物に肩入れはしないまでも、激した調子の言葉を発している人に対して興ざめするというか。

一方で自分が発信するときに、例えば誰かを「国賊」「売国奴」「愚か者」「〇〇省の犬」などと呼びたくなったら、ひと呼吸おいて、マイルドな言葉を探すように心がけたいと思った次第です。敵に塩は送りたくない。

内容紹介は「大声」でいいのか?

というところで以上、竹内政明さんの「私の十戒」のうち、特に印象に残った三つをご紹介しました。

他の七つの戒めや、第二章以降にも学ぶべき点が多いので、文章に限らず何かを発信したい人は機会があればぜひ。

下ネタが多いので注意が必要ですが、「2013年頃は、まだこれがおじさんのユーモアとして通用していたのか…?」と驚愕しながら読むのもまた一興かと思います。

あと疑問なのは、表紙の折り返しに書かれた内容紹介が、本書で繰り返し語られる文章術と対極のものになっていることです。十戒のうち「【第三戒】大声で語るなかれ」に真っ向から反するような。

当代随一の名文家が文章術の秘密を初めて明かした!読売新聞の看板コラム「編集手帳」を十年以上にわたり執筆してきた筆者が名文の生まれる裏側にご案内。「私の”文章十戒”」「刑事コロンボの教え」など、笑って、胸打たれて、ためになる—前代未聞の文章読本。

「第三戒」で竹内さんが言う「大声」とは、「身ぶりの大きな言い回し」のこと。例えば、「絶品」「喝破する」「至言である」などが「大声」の例です。

読み手の「自分はそうは思わないけど?」「それほどでもないと思うよ?」との反感を招く可能性があるというのが「大声で語るなかれ」の主な理由ですが、本書内容紹介の「当代随一」「名文家」「看板コラム」「名文」「前代未聞」「笑って、胸打たれて」あたりはまさに「大声」っぽいんですよね。

著者のあずかり知らぬところで書かれ掲載されたものなのか、それともコラムとキャッチコピーは違うのか。気になるところです。

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