5月11日に憲法改正手続きに関する国民投票法改正案が衆院を通過し、「コロナやオリンピックのどさくさに紛れて、という感があるなあ。改憲派の人々にとっては絶好のチャンスなんだろうなあ」等々、ものを考えたつもりになっていました。
しかしその少し前、当の改憲派の方が、「今回のコロナを、ピンチをチャンスとして」と明言なさっていたようで。いや、失礼しました。
自民党の下村博文政調会長は憲法記念日の3日に改憲派の集会に出席し、党改憲案の一つである緊急事態条項創設の実現を訴える中で感染症拡大を緊急事態の対象に加えるべきだと述べ、「今回のコロナを、ピンチをチャンスとして捉えるべきだ」と語った。
この「コロナのピンチをチャンスに」発言に対して、作家の平野啓一郎さんや立憲民主党の蓮舫さんが苦言を呈したという報道がありました。平野さんは、コロナで国民が苦しんでいる現状を「チャンス」ととらえることについて、政治家である以前に「人として相当、どうかと思いますが」と疑問を呈し、蓮舫さんは、現行憲法を守り国民の生存権を守る決意を新たにしています。
私は、改憲派がコロナをチャンスと捉えていることに疑いはないものの、まさか当の本人たちが公言はしないだろうと思っていたところ、改憲派の中でも立場のある人が普通に発言してしまったことに、空恐ろしさを覚えました。
下村政調会長の内心は計り知れませんが、私に考えうるのは
- 「国難」という言葉に酔ったのか、つい口を滑らせてしまった。
- 物議をかもしうるが、国民の大半は五輪と小室さんに気を取られているから大丈夫だと思っていた。
- おそらく物議をかもすだろうが、誰も自分たちの勢いを止めることはできないと思っていた。
あたりでしょうか。どれも嫌ですね。①ならそんな粗忽な人たちに憲法改正を委ねるのは恐ろしいですし、②③なら国民は完全に甞められているということになりそうです。
幸い、国民投票法改正案については、連立与党の公明党幹部が、国会の会期終了までに憲法審査会でしっかり議論を積み重ねようと言っているので、期待したいところであります。
公明幹部、CM規制「早急に議論を」 国民投票法改正案巡り: 日本経済新聞
ところで、今回の下村政調会長の「ピンチをチャンスに」発言ですが、よく考えると「ピンチ」って、分かったような分からないような言葉ですね。この機会に使い方や語源を調べてみました。
まず語源。なんとなく和製英語っぽいですが、英語です。英語「pinch」には、「窮地、苦しい状況、危機」という意味があります。『英辞郎 on the WEB』には、カタカナ語の「ピンチ」も意味として載っています。
「pinch」には「つまむこと、はさむこと」、また動詞で「つまむ、はさむ」という意味がありますが、何かに挟まれて身動きできなくなるようなギリギリの状況をも指す模様。
ただ、日本語で「ピンチ!」という状況を、英語ネイティブに伝えるのに「pinch!」という一語だけだと、ピンとこないようで。「ピンチなんだよ」と言いたい場合は、“I’m(We’re) in a pinch.”となるようです。
次に、カタカナ語としての「ピンチ」の使い方ですが、Googleでニュース検索をしてみると、スポーツニュースで「ピンチで粘り強い投球を見せた」「7回ピンチを切り抜けた」「一死満塁のピンチ」などの用例が目立ちます。
他の分野の見出しでは、「夏の電力需給がピンチ!」「温暖化で米ピンチ?」「ワクチン届かないピンチ」などテレビ放送局のWeb版のニュースが目立ちました。深刻な話を軽めに伝えたいという場合に重宝されているという印象ですかね。
下村会長の発言を報じるニュース以外に、「ピンチをチャンスに」というフレーズの使用例もありました。三密を避けつつ、新しい恐怖体験が味わえるお化け屋敷を提供することに成功した会社の例です。
コロナのピンチをチャンスに変えた「ドライブインお化け屋敷」仕掛け人を直撃!|ウォーカープラス
なお、仕掛け人の方が「コロナのピンチをチャンスに変えた」と発言したわけではないようですので、念のため。
また、このお化け屋敷の事例は、コロナ禍で苦境に陥ったビジネスを新しい発想で立て直した例であり、コロナ禍自体をチャンスと捉えたわけではないと思われます。
その点、自民党の「コロナのピンチをチャンスに」党改憲案に緊急事態条項を盛り込んでしまおうという発想は、「この機に乗じて」というのが適切かと思われます。
参考ページ:
ピンチ!という英語は和製英語? | 楽しく英語を知るブログ
pinchの意味・使い方・読み方|英辞郎 on the WEB